生成AIと権利関係
生成AIで作成した画像を出版物に使用する場合は、完成度だけでなく、入力素材の権利、生成結果と既存作品との類似性、サービスの利用規約なども確認する必要があります。
特に、「商用利用可能」と「第三者の権利を侵害していない」は同じ意味ではない事があります。サービスの規約上は商用利用できる場合でも、生成された画像の内容については、利用者側で確認する必要があります。

参照画像を入力する際の注意
既存のイラストを参照画像としてAIに読み込ませる場合は、その画像をAIへ入力し、派生画像の生成に使用できるかを確認する必要があります。
文化庁は、著作物を生成AIへ入力する行為が、著作権法上の「複製」に該当する可能性を示しています。著作権法の例外規定が適用されるかどうかは、入力の目的や利用方法によって判断されます。
文化庁「AIと著作権に関する考え方について」(https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/94037901_01.pdf)
出版制作では、自社や依頼元が権利を持つ画像、権利者から許諾を得た画像、規約上AIへの入力が認められた素材を使用するのが基本となります。
画像データを所有していることと、AIへ入力して派生画像を作成できることは同じではありません。イラストレーターから納品された画像や、素材サイトから購入した画像についても、契約や利用規約の確認が必要です。

生成画像と既存作品との類似性
生成画像を出版物に掲載する際は、既存のイラスト、キャラクター、ロゴ、特徴的な構図などと類似していないかを確認します。
文化庁は、AI生成物についても従来の著作物と同様に、既存作品の創作的な表現と似ている「類似性」と、その作品をもとに作成したと考えられる「依拠性」によって、著作権侵害に当たるかが判断されると整理しています。
例えば、特定のイラストを参照画像として入力し、その作品の特徴的な表現と共通する画像が生成された場合は、著作権侵害となる可能性があります。
画像検索などで類似する画像を調べる方法もありますが、検索で見つからなかったことが、権利侵害がないことの証明になるわけではありません。最終的には、人間が生成結果を確認する必要があります。

AI生成画像は著作物になるか
AI生成画像が著作物として保護されるかは、人が制作にどの程度創作的に関わったかによって個別に判断されます。AI自体が著作者になることはありません。
具体的なプロンプトによる指示、生成を繰り返す過程での修正、生成後の加筆や描き直しなどは、人の創作的な関与を判断する要素になり得ます。ただし、いずれか一つを行えば、必ず著作物として認められるわけではありません。
文化庁「AIと著作権に関する考え方について」 (https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hoseido/r05_07/pdf/94021801_03.pdf)
生成画像が著作物として保護されない場合でも、直ちに出版物へ使用できなくなるわけではありません。一方、第三者に同じ画像を使用されたときに、著作権を根拠として利用を止めることが難しくなる可能性があります。
継続的に使用するキャラクターや、独自性が重要なイラストについては、人が加筆や調整を行い、その制作過程を記録しておくことも重要です。
利用規約と入力データ
生成AIを出版物に使用する場合は、利用したサービスと生成モデルの規約も確認する必要があります。
例えば、Adobe製品内で利用できる生成AIであっても、Adobe FireflyとNano Banana 2などのパートナーモデルでは、適用される条件が異なります。Adobeは、パートナーモデルについて、利用者が用途への適合性を判断する必要があると案内しています。
Adobe「アドビ製品におけるパートナーモデル」 (https://helpx.adobe.com/jp/creative-cloud/apps/generative-ai/non-adobe-models-in-adobe-products.html)
また、未公開の原稿、制作途中のイラスト、依頼元から支給された画像などを入力する場合は、サービス側に入力内容が保存されるか、AIの学習やサービス改善に使用されるかについても確認が必要です。
規約やデータの取り扱いは、サービス、契約プラン、使用するモデルによって異なり、更新されることもあります。そのため、利用時点の規約や設定を確認し、使用したサービス、モデル、生成日、参照画像などを記録しておくことが望まれます。

現状における考え方
生成AIと著作権については、文化庁による考え方や、各サービスの利用規約などが公開されています。一方、出版物に使用する際の確認方法や記録項目について、業界全体で統一された実務上のルールが確立されているとはいえません。
そのため、AI生成画像を一律に使用できる、または使用できないと判断するのではなく、入力素材の権利、生成結果、利用規約、用途を案件ごとに確認し、人による制作や修正を含めた最適な方法を選ぶ必要があります。
事例紹介
生成AIは、短時間で複数の案を作成したり、見本画像の特徴を反映した別のイラストを生成したりできる一方、使い方によっては必ずしも制作工程の効率化につながらない場合があります。
意図した結果が得られるまで再生成を繰り返したり、生成後に多くの修正が発生したりすると、はじめから人の手で制作する場合より時間がかかることもあります。反対に、生成AIが得意とする工程と人が判断・調整する工程を分けることで、作業時間を抑えながら品質を確保できる可能性があります。
ここでは、生成AIの活用が難しい事例と、その特性を活かせる事例を通して、出版物の制作に適した使い方を検討します。
意図した結果が得られず、再生成を繰り返すケース
生成AIでは、全体として自然なイラストが作成できても、細部の構造が正しく表現されないことがあります。特に、ひもや指など、複数の要素のつながりを正確に描く必要がある図版では注意が必要です。

靴ひもの結び方を示す図を生成したところ、靴や手、ひもの質感は自然に描かれ、説明図として見やすい仕上がりになりました。
一方、靴ひもの構造を確認すると、すべての穴にひもを通し終える前の位置に、輪と結び目が描かれていました。
本来は、履き口側までひもを通したあと、左右の先端を使って結び目を作るため、この位置に結び目があるのは不自然です。

そこで、途中に描かれた輪と結び目を削除し、左右の靴ひもが交差しながら上部の穴まで正しく通るように修正を指示しました。

修正後は、結び目はなくなり、靴ひもも規則的に交差しているように見えます。しかし、左側の先端だけが履き口側の最下段ではなく、一段上の穴から出ており、左右でひもの通り方が一致していませんでした。問題箇所を修正しても別の位置に不整合が生じ、正しい構造にはなりませんでした。
このように、問題のある部分を文章で指定して修正しても、その部分だけが変更されるとは限りません。現在の画像生成AIは高い品質のイラストを生成できますが、細かな構造を維持したまま一部分だけを直そうとすると、再生成によって別の箇所が変化する場合があります。
変更してはいけない部分が多い図版では、再生成を繰り返すよりも、Photoshopで修正範囲を限定するか、人の手で必要な箇所だけを修正したほうが効率的な場合があります。
大量のAI生成イラストに個別の修正が必要となるケース
出版物の制作では、同じ人物が異なる作業を行うイラストを、複数点使用することがあります。このようなシリーズでは、人物の顔立ちだけでなく、服装や装備、配色なども統一する必要があります。
次のイラストを、人物と服装の基準とします。

他のイラストでは、同じ作業員が別の作業をしているイラストです。全体の画風や人物の特徴はおおむね統一されていますが、基準画像と比較すると、それぞれ異なる箇所があります。

基準画像で白色だったヘルメットが黄色になっています。

基準画像にはなかった青色の胸ポケットが、反射ベストに追加されています。

基準画像の反射ベストに入っていた横一本の反射帯が、V字型のデザインに変わっています。
いずれも一枚のイラストとして見れば、目立った不自然さはありません。しかし、同じ人物が同じ服装で作業しているシリーズとして使用する場合は、基準画像に合わせて個別に修正しなければなりません。
一枚あたりの違いは小さくても、支給される画像の点数が増えると、基準との比較、修正箇所の確認、レタッチや描き直しにも時間がかかります。AIによって大量のイラストを短時間で用意できたとしても、生成後の修正量によっては、制作工程全体の効率化につながらない場合があります。
こうした不統一を抑えるには、生成を始める前に、人物の容姿や服装、装備、配色などの基準を明確にしておくことが重要です。例えば、「白いヘルメット」「横一本の反射帯が入ったオレンジ色のベスト」「胸ポケットは付けない」といった条件をプロンプトに記載し、すべての画像で共通して使用します。
文章による指定だけでなく、基準となる人物のイラストや、正面・側面の設定画を参照画像として使用する方法もあります。また、ヘルメットや作業服の色をカラーコードで指定することで、生成結果のばらつきを抑えやすくなります。

見本イラストを参照し、同じシリーズの派生イラストを生成する
書籍やパンフレットでは、同じ人物を異なる場面に登場させたり、共通したタッチで複数の素材をそろえたりすることがあります。このような制作では、基準となるイラストを参照画像として設定し、その人物や画風を引き継いだ派生イラストを生成する方法が有効です。
同じ人物を異なる場面へ展開する
最初に、パソコンで作業する社員のイラストを基準画像として設定しました。

基準画像には、人物の髪形や服装、配色、輪郭線の太さなど、シリーズ全体で維持したい特徴が含まれています。この画像をアセットとして参照し、打ち合わせ、電話対応、来客対応という別の場面を生成しました。

打ち合わせをする社員

電話対応をする社員

来客対応をする社員
生成されたイラストでは、場面や構図が変わっても、黒い肩までの髪、紺色のジャケット、グレーのパンツといった人物の特徴が引き継がれています。輪郭線や使用する色数もおおむね統一されており、同じ社員が異なる業務を行っているシリーズとして使用できる仕上がりになりました。
文章だけで人物の特徴を毎回指定する方法と比べ、基準画像を参照させることで、人物や配色の方向性をそろえやすくなります。ただし、表情や顔の形、衣服の細部などにはわずかな違いが生じるため、シリーズとして厳密に統一する場合は、生成後の確認と調整が必要です。
同じ画風で複数の素材を展開する
基準となるリンゴのイラストを作成し、それを参照画像として、同じ画風・タッチで別のイラストを生成しました。
参照画像として作成したイラスト

参照画像を元にしたイラスト








生成されたイラストには、太い黒色の輪郭線、クレヨンで塗ったような質感、鮮やかな配色など、基準画像の特徴が反映されています。形状や色の異なる果物でも、同じ絵本に掲載する素材として一定の統一感を保ちながら展開できました。
このように、最初に画風の基準となるイラストを用意し、それを参照しながら別のモチーフを生成することで、文章だけで個別に画風を指定する場合よりも、シリーズ全体の方向性をそろえやすくなります。
Illustratorでベクターを生成し、人の手で仕上げる
Illustrator 2026では、文章による指示から、編集可能なベクターイラストを生成できます。生成結果はパスや塗りで構成されているため、形状や線、配色を生成後に個別に調整できます。
ここでは、企業案内パンフレットに掲載する配送スタッフのイラストを生成しました。

人物の構図や表情、服装などは意図に近い状態で生成されましたが、ポロシャツの色を企業の指定色に変更する必要があるものとします。
このように修正箇所が明確で、形状を変更する必要がない場合は、プロンプトを変更して再生成するよりも、 Illustrator上で塗りの色を直接変更するほうが簡単です。今回はポロシャツを構成するパスを選択し、青色から指定したオレンジ色へ変更しました。

手作業による修正では、人物の顔や姿勢、段ボール箱など、変更する必要のない部分をそのまま維持できます。また、RGB値やCMYK値を指定して、媒体や企業の基準に合わせた色を正確に設定することも可能です。


生成結果の大部分を使用でき、修正箇所が色や一部の形状に限られている場合は、再生成を繰り返すよりも、人がベクターデータを直接編集したほうが速く、確実に仕上げられます。生成AIで全体を作成し、必要な箇所だけを人の手で調整することは、ベクター生成の特性を活かした効率的な方法といえます。
さらに、「ターンテーブル」機能を使用すれば、イラストを再生成することなく、人物を別の角度から見たベクターイラストを作成できます。

スライダーを操作することで、正面、側面、背面、斜め方向など、必要なアングルを確認しながら調整できます。服装や荷物など、元のイラストの特徴を引き継いだ状態で向きを変更できるため、同じ人物を複数の場面で使用したい場合にも活用できます。
まとめ
生成AIの性能は向上していますが、出版業界では、権利関係や使用方法について統一された実務上のルールが確立されているとはいえません。そのため、入力素材の権利や生成結果、利用するサービスの規約を案件ごとに確認する必要があります。
また、短時間で画像を生成できても、再生成や修正を繰り返すことで、かえって作業時間が増える場合があります。生成AIを使用すれば、必ず制作工程を効率化できるわけではありません。
生成AIの利用を前提とするのではなく、権利関係、省力化、品質、修正のしやすさなどを総合的に検討し、AIによる生成、既存素材の利用、人の手による制作・調整の中から、案件に適した方法を選ぶことが重要です。

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