話題のグラフィックデザイン作成ツール、Canva。
AIも活用した様々な機能で、デザイン作業を支援してくれます。
書籍制作の現場でどれだけ活用できるのか検証してみました。
Canvaは、オーストラリアのCanva Pty Ltd社によって開発された、クラウドサービス型のグラフィックデザインツールです。ブラウザや専用アプリから利用でき、無料版と有料版が用意されている。豊富なテンプレートと直感的な操作性を特徴としており、デザイン経験がないユーザーでも短時間で見栄えのよいコンテンツを作成できます。
用途はSNS投稿、チラシ、名刺、ポスター、プレゼン資料など幅広く、個人利用からビジネス用途まで対応しています。
一方で、商業印刷向けのデータ作成には、詳細なカラー設定が出来ない点や、出力PDF仕様の問題といった制約があるため、本格的なDTP作業に活用するには難しい部分があります。
Canvaで出来ること
公式HPでご確認下さい。
Canva無料版と有料版(Pro)の違い(DTP上の問題について)

有料版の方がよいのか?
Canvaでは、CMYK PDFを作成したりドキュメント内でCMYKカラーを使うにはPro版を使用する必要があります(無料プランはRGBのみサポートされている)。
そのため、印刷用データの作成を行う場合はProプランの利用が前提と言えますが、その上でいくつか注意点があります。
・まず、CMYKといってもカラープロファイルの指定や変換条件の細かな設定はできず、色管理の精度には限界がある。
・また、用意されているテンプレートの大半はRGB設計であるため、CMYK前提での作業には不向きで、色の変化には注意が必要。
・編集画面上ではCMYKカラーを入力してもRGBでプレビューされるため、カラーキャリブレーションができない。
・ Pro版を契約しても「DTPレベルで完全な商業印刷データ」を作れるわけではない。(理由を後述します)
Canvaで印刷用データを作成するのが難しいと感じる部分
・日本式トンボ(トリムマーク)の生成が出来ない
CanvaでPDF作成時に設定できるトンボは「西洋式トンボ」であり、印刷業界で使用される一般的な日本式トンボとは異なります。また、トンボについての調整なども出来ません。

西洋式トンボ(Canvaの対応トンボ形式)

日本式トンボ
・PDFの出力設定が出来ない
CanvaでのPDF出力はPDF(標準)とPDF(印刷)の2種類のプロファイルから選択する形となり、IndesignのPDF出力のような詳細設定は出来ません。
・塗り足し(裁ち落とし)の詳細設定が不可
Canva上で塗り足しエリア自体は追加出来ますが、標準の3mmから変更したり出来ません。
・フォントの埋め込みやアウトライン化ができない
書体によっては印刷環境で置換・文字化けが起こる可能性があり、正確な文字再現が保証されない可能性があります
・図形や写真に対して、数値的な調節ができない
Indesignでは「変形パネル」などの制御パラメータからオブジェクトの大きさを数値で反映出来ますが、Canvaでは相当する機能はありません。
・レイヤー構造が簡易的
複雑なデザインや重ね順の管理、要素の分離出力が出来ません。特に後工程での修正・加工は難しいと感じます。
・カラープロファイル
プロファイルや変換形式をユーザー側で確認・変更が不可なため、色の変化を事前に精密に予測できません。
Pro版の導入でCYMK問題などの解消は可能ですが、上記の仕様とInDesignとの連携が出来ない点(互換性のある形式で出力出来ない)も踏まえて、商業印刷用データを作成するには不安な部分が多く、DTP現場での直接運用には適しません。それを踏まえた上で活用法を模索します。
著作権上の問題について
Canva内で使用出来る素材・書体の大部分に商用利用が許可されていますが、注意点があります。
・基本的には、デザインの作成者が著作権を所有します。
・Canva内の固有素材を使用してオリジナルのデザインを作成した場合は「作成者であるユーザーが著作権の所有者」になります。
・第三者が作成したCanva内の素材を使用して作成した場合は「その第三者が著作権を保有します」。Canvaのテンプレートを使用した際も同様です。
参照:Canvaヘルプセンター「Canvaで作成したデザインの著作権の帰属」
参照:Canva「知的財産ポリシー」
商用利用は可能か?
Canvaは、オリジナルデザインを作成した場合に限り、商用利用を認めています。
公式からは「販売できるのはオリジナルデザインのみ」との表記があります。
オリジナルデザインとは…デザイン素材(画像、動画、オーディオファイル、その他のメディア、テキスト、イラスト、背景機能など)と編集テクニックを組み合わせたCanva Contentを使用して、「新しい」クリエイティブ作品を作成すること(公式引用)。
つまり、Canvaの無料素材・Pro素材・AI生成素材を使ってチラシやポスターなどの印刷物を商用利用することは、プランに関わらず許可されています。
→ただ、Pro版限定素材などは、プランを退会するとライセンスが剥奪される為注意が必要です。
注意が必要な点
イラストACなどと同じく、Canvaのコンテンツを単独で販売することはできません。
・コンテンツをそのままの形で使用すること
・フィルターのみを使用すること
・カラーのみを変えること、サイズのみを変更すること
・コンテンツを切り抜きまたはアウトライン化したもののみを使用すること
・ボーダーなどの追加デザイン素材を最小限にして1つのコンテンツを使用すること
上記のようなものは全て「単独使用」と判断されます。
ただ、作成した制作物が「オリジナル」なのか「単独使用(再配布)」なのかの判断基準は曖昧です。
Canva公式も「自分がクリエイティブな努力を傾けたユニークなデザインなのか、それとも素材を最小限の変更で再販しているだけなのかを自問して判断するように」と案内しており、明確な線引きはされていません。
そのため、商用利用を前提とした制作物にCanva素材を使用する際は、独自性の高い編集や構成を意識し、慎重に判断する必要があります。
Canvaの活用方法について(リスクを踏まえた上で)
先述の通り、Canvaには商業印刷物の制作においていくつかの制約やリスクが存在します。
たとえば、PDF/X準拠でないこと、フォントのアウトライン化ができないこと、カラーマネジメントの精度が低いことなど、印刷工程で問題となり得る要素が複数あり、DTP業務においてはメリットと同等のリスクやコストが予想されます。
そのため、Canvaを印刷物制作の主軸に据えるのではなく、その長所を活かした補助的な使い方を検討するのが現実的だと考えられます。
Canvaの利点は、操作の手軽さと、クラウド上でのスムーズな共有機能です。共有URLを送るだけで、デザインの送受信を行うことができ、メール添付やファイル転送サービスのような送信コストがかからず、迅速にやりとりが可能です。
※ただ、限定的なアクセスURL(一意の非公開リンク)による共有とはいえ、クラウドサービスである以上、機密性の面では一定のリスクが残ることも事実です。
実際に、このように、テキストやラフデザインなど「情報のみ」のやり取りに用いる分には、非常に実用的なツールと言えるでしょう。
結論として、Canvaは、素早くラフデザインを作成したり、視覚的に構成を整理したりといったアイデアの初期段階をかたちにする用途に特長のあるサービスだと感じられました。
その意味では、DTPツールというよりも、編集業務や企画制作の補助ツールとしての適正が高いように思います。
Canvaで作成したデータによる印刷実験
Canvaで作成したデザインデータを実際にPDFとして書き出し、通常と同じ印刷方法でどのような出力結果となるか、仕上がりを検証します。
【使用条件】
・「PDF 印刷用(RGB)」設定で書き出し→CMYKに分解して印刷
・実験対象:色面・文章・透明効果や線を含むレイアウトデザイン
【主な観察ポイント】
・色の再現性:画面上の発色と印刷物での見た目の差
・細線・装飾の再現性:線幅の細い線が正確に表現できているか
・透明効果が表現できているか
・文字の表示品質:フォントの輪郭・太さ・にじみの有無


・発色に関しては、元がRGBな為、CMYKで印刷された誌面は少し沈んだ色になっている。
・CMYKに分解した為か、波のグラフィックと青い地色の境界線がよりハッキリ隔たっているのが気になった。(Pro版でCMYKで作成すればデータ上で変化を確認出来ると思われる為、あまり問題ない)
・解像度を確かめるためQRコードを配置しましたが、潰れることなく描画出来ていました。


・透明効果は正確に再現出来ていました。
・また、Canvaで設定出来る最も細い線幅も潰れることなく表現出来ています。
・上付き・下付きなどの文字機能もデータ通りです。
・元のCanva上では、背景は白(#FFFFFF)に設定していましたが、出力されたPDFでは白ではなく、若干青みがかった色なのが気になりました。(実際に僅かに色が付いています)
以上の結果から、Canvaで作成したデータは、商業印刷物ではない簡易な印刷物や配布資料としては実用的なレベルにあると評価できます。
ただし、色の再現性やカラーマネジメント、細部の精度においては商業印刷向けの専用DTPツールに比べて再現力に限界があり、用途や求められる品質に応じて適切に使い分けることが重要だと感じました。
Adobe Expressとの比較
Adobe Expressとは
Adobeが提供している、誰でもかんたんに魅力的なコンテンツをブラウザ上で作成できるオンラインデザインツールです。ロゴやチラシ、Instagramリールなどの動画も作成可能です。
CanvaとAdobe Expressはどちらも非デザイナー向けのグラフィック作成ツールです。
ユーザー層・用途・機能が重なっているところが多い為、まずは双方の仕様的な比較を行いました。
無料プラン比較

有料プラン比較

◯AI生成の仕組みが異なる
・Adobe Expressは「クレジット制」(素材の種類で消費量が変動することがある)
・Canvaは「回数制限制」(画像生成50回など)
→ ※AI活用頻度が高い場合、Canvaのほうがわかりやすい・上限が高い印象。
◯フォント数に大きな差
・Adobe Express(有料)では 25,000種類以上(Adobe Fontsと連携)
・Canvaは Proでも3,000種類程度(フォントアップロードは可能だが別途ライセンス注意)
→フォント選び重視のデザイン業務ではAdobeが適している
◯クラウドストレージの容量差が大きい
・Canva:1TB
・Adobe Express:100GB
→チームで大量のデータを扱う用途では、Canvaのほうが良い。
◯「リサイズ機能(ドキュメントサイズ変更)」の制限がCanva無料版の弱点
・「リサイズ不可」は複数媒体での展開(A4→SNS等)に制限があるため、実務運用ではやや不便
実際に使用してみましたが、下記のような違いがある印象でした。
Canva:手軽で使いやすく、共有・クラウド容量・生成回数に強み
Adobe Express:フォント・動画・Adobe連携に強み。よりプロ向け
こちらの用途合ったものはどちらか
前提として、Canvaは本格的な商業印刷物の制作に活用するには、PDF/X非対応・カラープロファイル未指定・フォント処理の制約など、仕様上の壁が多く残っています。
ただし、機能面だけで見れば、CMYK出力・塗り足し設定・印刷用PDFの書き出しが可能である点で、Adobe Expressよりも印刷用途に適した機能が備わっているとも言えます。
そのため用途ごとの適性をまとめると、次のようになります。

まとめ
Canvaは、デザイン経験がなくても扱いやすく、直感的な操作や豊富なテンプレート群によって、誰でも一定のクオリティのビジュアルを短時間で制作できる点が最大の強みです。
特に、社内資料やWeb向けバナー、企画段階のラフ作成など、印刷物以外の領域や初期制作段階での活用においては、十分に実用性があると評価できます。
一方で、商業印刷物の制作においては、PDF出力仕様やカラーマネジメント、フォント処理などにおいてDTPツールに及ばず、用途に応じた使い分けが求められることも事実です。
商業印刷向けコンテンツのデータをCanva を使って作成し、制作会社や印刷会社に入稿する場合は、事前に作業フローを整備し、工程間で共有しておくことが必要と思われます。
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