出版物におけるイラスト・図版のAI生成【前編】

AI活用・生成技術

AIで作成したイラストや図版は、出版物にどこまで活用できるのか
新規生成、部分修正、派生イラスト作成を実際に検証し、
品質・効率・権利の面から、AIと人の手の適切な使い分けを考えます。

 近年、画像生成AIの性能が向上し、文章から画像を作るだけでなく、見本画像を参照した派生イラストの生成や、画像の部分修正、ベクター化なども可能になっています。出版物の制作でも、装丁、挿絵、図版などへの活用が期待されています。
 一方、意図した結果が得られず、再生成によってかえって時間がかかる場合もあります。また、出版物に使用する際は、品質や修正のしやすさに加え、著作権や利用規約も確認しなければなりません。

 本記事では、実際の生成・修正結果を紹介しながら、生成AIが有効な場面と、人の手による作業が適している場面を紹介します。

出版物における生成AI活用の現状

 近年の画像生成AIは、短い文章からでも、写真、手描き風イラスト、マンガ、フラットな図版など、さまざまな画像を生成できるようになっています。さらに、既存画像をもとに人物の服装やポーズを変更したり、見本イラストの配色やタッチを参照して別のイラストを作ったりすることも可能です。

 しかし、出版物への利用を考える場合、単に「画像を生成できる」だけでは十分ではありません。編集者やデザイナーの指示に沿った構図になっているか、同じシリーズのイラストとして統一感があるか、細部に不自然な箇所がないかといった点も重要になります。

 そこで今回は、児童向け教材に掲載する挿絵を想定し、ChatGPTNano Banana 2を使用して、次の3段階で検証します。

① 文章による指示だけで挿絵を生成する
② 生成したイラストの一部分を修正する
③ 見本イラストを参照して派生イラストを生成する

 はじめに、参考画像を使用せず、文章による指示だけでイラストを生成します。題材は、児童向け理科教材に掲載する「植物を観察する小学生」の挿絵としました。

 ChatGPTとNano Banana 2には、同じ条件で比較できるよう、次のプロンプトを入力します。

児童向け理科教材に掲載する挿絵。
机の上に置かれた植物の葉を、虫眼鏡で観察している小学生。
人物を横から見た構図。明るく親しみやすい手描き風のイラスト。
背景は白。黒い輪郭線と少ない色数で、教科書の図版として見やすくする。
文字は入れない。

 どちらの生成AIでも、文章で指定した内容から、短時間で一枚の挿絵を作成できます。人物、植物、虫眼鏡といった主要な要素に加え、「児童向け」「手描き風」「背景は白」といった表現上の条件も、ある程度生成結果に反映されます。

 数年前と比較すると、画像生成AIによるイラストの品質は大きく向上しており、用途によっては、生成された画像を素材として十分に検討できる水準に達しています。ただし、出版物への使用を判断する際には、全体の完成度だけでなく、細部の正確さも確認しなければなりません。

 出版物の制作では、作成したイラストに対して、「服の色を変更する」「人物の表情を変える」「持っている道具を別のものにする」といった修正が入ることがあります。

 画像生成AIでも、生成済みの画像を読み込ませ、文章で修正内容を指示することができます。ただし、画像全体をAIに渡して修正させた場合、指定した箇所以外にもわずかな変化が生じることがあります。

 そこで今回は、先ほど生成した「植物を観察する小学生」のイラストを使用し、人物が着ている服だけを変更できるか検証します。

 最初に、服の色だけを変更します。各ツールには、次の共通プロンプトを入力しました。

小学生が着ている緑の服を赤い服に変更してください。服の形や模様は変更せず、それ以外の部分も変更しないでください。

文章だけで修正箇所を指定する

 まず、Nano Banana 2に元画像を読み込ませ、文章だけで修正箇所を指定します。

 服の色は指示どおり緑色から赤色へ変更され、服の形や縞模様も維持されています。また、人物の顔や髪形、手、虫眼鏡、植物、机上のノートなども、見た目にはほぼ元の状態が保たれました。
 通常の大きさで2枚を見比べた限りでは、服以外の差を肉眼で見つけることは難しく、部分修正として精度の高い結果となっています。

修正前と修正後で、同じ位置にあるピクセルの色を比較した画像です。

・黒い部分:修正前後の差が小さい
・白い部分:修正前後の差が大きい
・灰色の部分:小さな色・明るさの差がある

 服が白く塗りつぶされたように見えるのは、緑色から赤色へ大きく変わったためです。これは指示どおりの変更です。
 人物や植物、机などの輪郭が白い二重線のように見えるのは、修正後のイラストがごくわずかに移動しているためです。例えば黒い輪郭線が1ピクセル移動すると、元の位置と移動後の位置の両方が差として検出されます。

注意点として、白い部分が「間違っている」「品質が悪い」という意味ではありません。あくまで、2枚の間でピクセルが変化した場所を示しています。また、見えにくい差を強く増幅しているため、実際の画像より変化が大きく見えます。

 また、修正を指定していない植木鉢について、修正前後の対応する箇所から色を取得し、カラーピッカーで数値を比較しました。(左/修正前 右/修正後)

 修正前の色は「RGB:217、140、98(#d98c62)」、修正後は「RGB:218、134、98(#da8662)」となりました。数値を比較すると、修正後はわずかに赤みが強く、暗い色味になっています。

 この違いは、修正前後の画像を通常の大きさで見比べただけでは、ほとんど判別できない程度です。しかし、カラーピッカーで数値を確認すると、服以外の部分も完全に同じ色ではなく、わずかに再生成されていることが分かります。

 今回の検証では、文章だけで修正箇所を指定した場合でも、服の形や縞模様を維持したまま色を変更でき、指定していない部分も見た目にはほぼ元の状態が保たれました。通常の挿絵として使用する範囲では、問題にならない程度の変化と考えられます。
 一方、厳密な色管理が必要な図版や、指定色を変更してはいけない案件では、このようなわずかな色の変化にも注意が必要です。その場合は、修正前後の色の数値を確認したうえで、Photoshopなどを使用して部分的に補正する必要があります。

Photoshopで修正範囲を限定する

 最後に、Photoshopで変更する範囲を選択し、「生成塗りつぶし」を実行しました。

 Photoshopでは、なげなわツールや選択ブラシツールなどを使用して、生成処理を適用する範囲をあらかじめ指定できます。また、生成に使用するAIモデルも選択できるため、今回はNano Banana 2を使用し、緑色の服を赤色へ変更しました。

小学生が着ている緑の服を赤い服に変更してください。服の形や模様は変更せず、それ以外の部分も変更しないでください。

 生成塗りつぶしで既存の物体を変更する場合は、服の輪郭ぎりぎりを精密に選択するよりも、服全体とその周囲を含むように、ある程度余裕を持った選択範囲を設定したほうが自然な結果を得やすい場合があります。

 今回は、服だけでなく、人物の上半身とその周辺を覆うように選択範囲を設定しました。選択範囲は、必ずしもその全体が描き変えられることを意味するものではありません。変更可能な範囲をPhotoshop側で限定したうえで、プロンプトによって「服の色を変更する」という処理内容を指定しています。

 生成結果では、緑色の服が赤色に変更されました。服の形、縞模様、袖のしわ、人物の姿勢などは維持されており、服と首や手との境界にも目立った不自然さは見られません

 また、選択範囲には人物の顔、髪、手、虫眼鏡、机の一部なども含まれていましたが、これらの要素は見た目にはほぼ元の状態が保たれています。AIがプロンプトから変更対象を服と判断し、選択範囲内のほかの要素を参照情報として利用しながら処理したものと考えられます。

 修正前後を交互に表示して比較すると、服の色だけが切り替わり、人物の顔や髪形、手、虫眼鏡、植物、机上の小物などは、ほぼ同じ位置と形状を維持していることが分かります。画像全体を再生成した場合に見られた、ごく小さな位置ずれや色味の変化も、今回の比較では目立ちませんでした。

 この違いは、生成処理を画像全体に適用するのではなく、Photoshop上で変更可能な範囲を限定したことによるものです。
 選択範囲外には生成結果が適用されないため、変更する必要のない部分を元画像のまま維持しやすくなります。

 また、生成結果は生成レイヤーとレイヤーマスクとして追加されるため、元画像を残したまま結果を比較したり、マスクを編集して適用範囲を調整したりすることもできます。

 出版物の制作では、修正指示のない部分を変えないことが重要です。そのため、生成AIによる部分修正を実務で行う場合は、文章だけで変更を指示する方法よりも、人が変更範囲を判断し、Photoshopなどで生成処理の適用範囲を限定する方法のほうが、より安全で調整しやすいと考えられます。

 書籍内に複数のイラストを配置する場合、それぞれのイラストで線の太さ、配色、陰影、人物の描き方などをそろえ、全体の画風やタッチを統一する必要があります

 また、教材や児童書などでは、同じ登場人物を理科、算数、社会などの異なる場面に登場させることがあります。このような場合は、場面やポーズを変更しながら、人物の顔、髪形、服装、頭身などを維持しなければなりません。

 ChatGPTやNano Banana 2など、多くの画像生成サービスでは、既存のイラストを「参照画像」や「アセット」として読み込ませ、その特徴を反映した新しい画像を生成できます。文章だけで画風を説明する場合と比べ、見本となる画像を直接指定できるため、線や配色、人物の特徴などを伝えやすくなります。

 そこで、先ほど使用した「植物を観察する小学生」のイラストを参照画像として設定し、同じ男の子を別の教科・場面に登場させたイラストを生成します。

 今回は、理科の観察場面から算数の学習場面へ変更し、「定規を使って鉛筆の長さを測る小学生」のイラストを生成します。各サービスには同じ参照画像を読み込ませ、次のプロンプトを入力しました。

添付したイラストを参照し、同じシリーズの児童向け教材に掲載する新しい挿絵を作成してください。

参照画像の男の子と同一人物に見えるように、黒い髪、顔立ち、頭身、緑色の横縞の長袖、青いズボンを維持してください。線の太さ、少ない色数、柔らかな陰影、親しみやすい手描き風のタッチも参照画像に合わせてください。
場面は算数の学習です。男の子が机の上に置いた鉛筆の長さを、定規を使って測っています。定規と鉛筆の位置関係が分かる、横から見た構図にしてください。
背景は白。人物は一人だけとし、文字、数字は入れないでください。

 このプロンプトをもとに、複数サービスで派生イラストを生成し、仕上がりを比較します。

 参照画像とは異なる斜め前からの構図で、鉛筆を測る場面が生成されました。黒い髪や緑色の横縞の服など、人物の特徴とイラストのタッチはおおむね維持されています。一方、顔や髪、襟元の描き方には若干の違いが見られました。

 参照画像の太い輪郭線、少ない色数、人物の描き方がよく維持されており、3つの中では元画像との統一感が最も高い結果となりました。また、ベクターデータとして生成されるため、線や形、配色をあとから調整できます。

 人物の服装や配色を引き継ぎながら、斜め前から見た新しい構図が生成されました。イラストとしての完成度は高いものの、顔や髪の描き方には元画像との差がややある形となりました。

 3つの生成結果の中では、参照画像の太い輪郭線、少ない色数、フラットな塗り、髪や顔の形などが最もよく維持されています。顔の向きが変わっても、元のキャラクターと同一人物であることを比較的判断しやすく、イラスト全体のタッチにも高い統一感がありました。

 また、Illustratorで生成された結果はベクターデータであるため、生成後に線の太さ、形状、配色などを個別に編集できます。顔や手、定規などに修正が必要な場合でも、パスを調整して既存のシリーズに近づけられる点は、出版物の制作における利点です。

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