明昌堂クリエイティブレポート
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▲数式組版は、最も高度な専門技術が求められる分野のひとつです。当社では長年にわたり、その品質と効率を追求してきました。現在はWord原稿からの自動組版について研究・開発を進めています。Wordの数式機能MathMLをブラウザで表示InDesign(インラインオブジェクト方式)InDesign(XML組版方式)■数式組版の現状 当社の数式組版技術は、主に小中学校の教科書および学参書籍向けに開発されました。数式組版は単に原稿どおりに文字を並べる作業ではありません。数式としての正確さはもちろん、読者にとっての「わかりやすさ」「見やすさ」が常に求められます。演算記号と数字のアキ(字間)、上付き・下付き文字のサイズや位置関係など、数式特有の規則を理解していなければ正しい組版は実現できません。こうしたルールはJIS規格でも詳細に定められています。 一方で、InDesignによる数式組版には依然として確立された標準フローが存在しません。近年ではWordの数式機能(OMML)を使用した入稿が増加している一方で、手書き原稿による入稿も依然として多く、入力形式は多様化しています。 こうした状況のなか、当社では「インラインオブジェクト」を駆使した独自の組版方法を研究・改良してきました。この手法はInDesign上で柔軟な制御を可能にし、教科書や学参書籍に適した品質を維持してきましたが、一方で、数式の構造情報が保持されないため、Webや電子書籍などの他メディアへの展開が難しいという課題もあります。 今後は、紙媒体だけでなくWeb・アプリ・電子書籍といった多様なメディアに同一の数式データを展開できる仕組みが不可欠です。そのためには、数式データをMathMLなどの標準化されたXML形式で統一的に管理する必要があります。■明昌堂で開発中の数式組版技術 現在当社では、MathMLを活用した次世代型の数式組版技術を開発しています。研究の方向性としては、大きく二つのアプローチを検討しています。 1つ目は、従来のインラインオブジェクト方式をベースにしつつ、特定の数式書体に依存しない汎用的な仕http://www.meisho-do.co.jp組版方式ごとの数式アウトプット例1/2November 12.2025Meisho-do Creative Report Vol.86組みを構築する方法です。Wordの数式(OMML)をMathMLに変換し、それを解析して自動的にInDesign上のインラインオブジェクトに変換します。これにより、既存のDTPフローに近い操作感を保ちながら、一定の自動化を実現できます。 ただしこの方法では、組版段階でMathMLの構造情報が失われ、完成した数式が単なる画像的オブジェクトとなってしまうため、Webなど他メディアへの再利用が難しいという課題があります。 2つ目は、MathMLをベースにXML組版技術を用いてEPSデータを自動生成し、それをInDesignに配置する方法です。この方式ではMathMLの情報構造を保持したまま組版できるため、InDesignからMathMLやWord数式への再変換も可能です。つまり「双方向変換」が実現できる点が最大のメリットです。 一方で、数式書体ごとに算術記号や上付き・下付き文字の位置関係を調整する必要があり、フォント仕様に応じたプログラム調整が求められるという課題もあります。Word機能を活かした数式の自動組版

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