なります。 その後、1204年の第4回十字軍によりコンスタンティノープルが分割されると、ラテン帝国の後ろ盾となったヴェネツィアは聖ソフィア大聖堂(現アヤソフィア)周辺から金角湾に至る利便性の高い地域を獲得し、全市の8分の3を領有することができました。この新たな植民地へ、ポーロ兄弟を含む幾多のヴェネツィア人がやってきて活動したのです。帝国領の各地からは、小麦、大麦、キビなどの穀物や豆類、オリーブ、ザクロ、イチジク、ヘーゼルナッツ、野菜、豆類、豚、その他の獣肉、魚介類、そしてワインが首都コンスタンティノープルに届けられました。また、コンスタンティノープルからヴェネツィアへは、年に2回、絹、染料、皮革、コショウ、しょうが、綿布、木材などが運ばれていきました。 ビザンツ帝国もしくはビザンティン帝国と呼ばれますが、正式な国名は「ローマ人の帝国」でした。ローマではなくコンスタンティノープル(現イスタンブル)に首都を置いたキリスト教国家で、ローマ帝国の生き残りと言える帝国です。ビザンツ帝国を構成する要素は、ローマ皇帝位を受け継いでいること、キリスト教を受容していること、ギリシア語(コイネ―)が公用語であることです。バルカン・アナトリア地域は古代より、日常生活や文化面ではギリシア語が優勢でしたが、帝国民の大多数の人々はローマ人としてのアイデンティティをもっていました。つまり、ギリシア語を話す人々が自らや自らの国を「ローマ人」、「ローマ帝国」と呼ぶ国家だったのです。7世紀からは公式にギリシア語が公用語となり、帝国の統治もラテン語ではなくギリシア語で行われるようになりました。 コムネノス朝の皇帝マヌイル1世コムネノスが1180年に亡くなると、ビザンツ帝国は急速に衰退していきます。アンドロニコス1世コムネノスは、恐怖政治により貴族たちを弾圧したので、各地に亡命したビザンツ皇族の要請で周辺国が帝国へ襲撃を始め、結果西の玄関デュラキオンや帝国第二の都市テサロニケが陥落しました。1185年に成立したアンゲロス朝では、ブルガリア人が反乱を起こし、結果、第二次ブルガリア帝国が樹立されるなど、ビザンツ帝国の解体が進んできました。 とどめが1204年の第4回十字軍の侵攻で、ビザンツ帝国はコンスタンティノープルを占領され、一時的に消滅しま0500km第5回第4回第6回第7回リヨンヴェネツィアジェノヴァウィーンローマレッジオアレクサンドリアチュニスアンティオキアアークルダマスクスエルサレムビザンツ帝国マムルーク朝(1250〜1517)アイユーブ朝(1169〜1250)ダミエッタコンスタンティノープルニカエアアンカラ(アンゴラ)アドリアノープルハンガリー王国神聖ローマ帝国マルセイユピサ黒 海地中海十字軍の遠征第4回(1202〜04)第5回(1228〜29)第6回(1248〜54)第7回(1270)イスラーム勢力の地域ローマ=カトリックの領域ギリシア正教の領域14世紀コソコソ話(マルコ・ポーロ後の世界からの便り)イブン・バットゥータ(1304〜1368)は1333年にジョチ・ウルスの都市で夏営地の1つであるブルガールから第10代君主ウズベクの第三ハートゥーン(皇后)のバヤルーンとともに、コンスタンティノープルへの旅に向かいました。バヤルーンはビザンツ帝国皇帝アンドロニコス3世の娘で、今回の旅は里帰り出産のために故郷に戻るというもので、バットゥータは同行の許可を得て、一緒に向かいました。途中の行程でわざわざ遠回りをしてクリミア半島を通るなど、バットゥータの文章から旅程を組むと現実との齟そ齬ごが生まれる箇所が出てきますが、ともあれバットゥータのコンスタンティノープルの描写は生き生きとしていて、そこに行った者でないと書きようがない皇帝との描写や修道院内部の詳細な説明、市中を廻る音楽隊の様子は、14世紀の当地にいざなうかのように臨場感たっぷりで、ポーロ兄弟とはまた違った愉しみを当地で味わっているかのようです。われわれの大クスタンティーニーヤ〔コンスタンティノープル〕への到着は、正午もしくは正午過ぎの頃であった。(中略)われわれはその館に三[日間]滞在したが、その間に歓待の食事として、小麦粉、パン、羊、鶏、バター、果物類、魚が、そしてディルハム銀貨と絨毯が遣わされた。そして四日目に、われわれは皇帝に謁見したのである。(イブン・バットゥータ、イブン・ジュザイイ編、家島彦一訳『大旅行記』(4))ビザンツ帝国Byzantine Empire▲ビザンツ帝国と十字軍058 第2章 南東ヨーロッパ第2章 南東ヨーロッパ 059第2章南東ヨーロッパ第2章南東ヨーロッパマルコ・ポーロの旅路 地図・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・002 1. ブロデット・デ・ペッシ(魚のブロデット〈煮込み〉)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・008 2. サヴォーレ・ア・カポーニ(去勢鶏肉のソース添え)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・009 3. クィンクィネッリ(14世紀ヴェネツィア風ラヴィオリ)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・010 4. プセーナシス・スーグリタレア(12世紀ビザンツ風肉の串焼き)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・012 5. ラランギア・メ・ト・メリ(ビザンツ風フリッター はちみつがけ)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・013 6. タムリーヤ(肉とドライデーツの煮込み)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・014 7. ムルーヒーヤ(14世紀エジプト風モロヘイヤシチュー)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・015 8. マーリフ・マクルー・サーズィジュ(塩漬けマグロの素揚げ)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・016 9. ジューザーブ・アッ= タムル(13世紀バグダード風デーツジャム)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・01710. クルディーヤ(クルド風羊肉の煮込み)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・01811. 黒子児焼餅(『飲膳正要』風黒ごまパン〈なつめ入り〉)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・02012. 水晶角児(14世紀風透明餃子)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・02113. 鯉魚湯(コイのスープ)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・02214. 乳餅(モンゴルチーズ)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・02315. 武家ノサカナノスエヤウ(武家の正月垸飯の膳)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・02416. 芋頭(里芋の煮つけ 味噌添え)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・02517. パーネ・ディ・サーゴ/沙糊餅(ファンスール王国風サゴパン)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・02618. ウリヒ・ウィヤンジャナ(12世紀インド風炊き込みご飯)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・02719. パーナカ(スパイス入り乳飲料)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・02820. テマナ(中世インド風柑橘ミルクスープ)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・02921. ラーヴァ(うずら肉のロースト)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・03022. ペリニャニ(ペリメニ[『原初年代記』風ダンプリング])・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・03123. キセリ(ロシア伝統粥『原初年代記』版)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・032 はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・034 プロローグ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・036 登場人物紹介・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・038イタリア半島・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・039ヴェネツィア・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・040ジェノヴァ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・042ピサ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・043ヴェネツィア対ジェノヴァ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・044ヴェネツィアの食事情・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・046イタリアの料理書・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・047Ⅰレシピ編 〜現代によみがえる 中世の料理〜 ・ 007Ⅱエッセイ編 〜マルコ・ポーロと巡る世界の食物語〜 ・ 033第章1食で読む東方見聞録料理1 ブロデット・デ・ペッシ・・・・・・・・・・・・・・・048料理2 サヴォーレ・ア・カポーニ・・・・・・・・・・・・・・049料理3 クィンクィネッリ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・050「東方見聞録」のパスタとラザーニャ・・・ 051調味料の比較 〜古代ローマと14世紀ヴェネツィア『リーブロ・ディ・クチーナ』との相違〜・・・・・・053南東ヨーロッパ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・055コンスタンティノープル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・056ビザンツ帝国・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・059ラテン帝国・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・061西進不可 ~「東方見聞録」にみる ビザンツ帝国とラテン帝国~・・・・・・・・・・・・・・・・063ネグロポンテ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・064ビザンツ帝国の東方諸国に対する外交政策・・・・・066中世のビザンツ帝国の食事情・・・・・・・・・・・・・・・・・・・06712世紀のビザンツにおける食の描写・・・・・・・・・・・069料理4 プセーナシス・スーグリタレア・・・・・・・・・071料理5 ラランギア・メ・ト・メリ・・・・・・・・・・・・・・・072アフリカ、シリア、ヒジャーズ・・・・・・・・・・・・・・・・・075アークル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・076エルサレム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・078エルサレム王国・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・079マムルーク朝・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・080「東方見聞録」に登場するマムルーク朝諸都市・084「東方見聞録」が語るマムルーク朝・・・・・・・・・・・・・087「東方見聞録」における砂糖 エジプト編・・・・・・088マムルーク朝とジョチ・ウルスの同盟・・・・・・・・・・090「東方見聞録」に登場する アフリカ諸都市あるいは地域・・・・・・・・・・・・・・・・092料理13世紀マムルーク朝期の エジプトの料理書・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・093料理6 タムリーヤ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・094料理7 ムルーヒーヤ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・095西アジア、中央アジア・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・097ライアス・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・098キリキア・アルメニア王国・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・099トレビゾンド・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・100フレグ・ウルス・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・103フレグ・ウルス? イルハン国?・・・・・・・・・・・・・・108フレグ・ウルスとマムルーク朝の戦いの記録・・・・108フレグ・ウルスの戦いの記録・・・・・・・・・・・・・・・・・・・109コカチン姫、フレグ・ウルス次期君主に嫁ぐ・・・110フレグ・ウルスの西方諸国との交渉・・・・・・・・・・・・111往路と復路の違いにみられる交易路の変遷・・・・・113西アジア各地の食材の記録・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・114ラスール朝・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・116チャガタイ・ウルス・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・117ボハラ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・118中央アジア各地の食材の記録・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11913世紀イラクの料理書・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・120料理8 マーリフ・マクルー・サーズィジュ・・・・・・122料理9 ジューザーブ・アッ=タムル・・・・・・・・・・・・123料理10 クルディーヤ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・125カイドゥ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・127アイジャルック・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・128「東方見聞録」に出てくる戦いの記録・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・129中国 大元ウルス・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・135大元ウルス・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・136タイドゥ〔大都〕・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・137シャンドゥ〔上都〕・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・139大元ウルスの季節移動・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・140キンサイ〔杭州臨安府〕・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・141ザイトゥン〔泉州「刺桐城」〕・・・・・・・・・・・・・・・・・・・142大元ウルス各地の食材の記録・・・・・・・・・・・・・・・・・・・143特筆すべき戦いの記録・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・144コラムコラム第章2第章3第章4コラム第章5目 次004 005エッセイ編~マルコ・ポーロと巡る世界の食物語~~マルコ・ポーロと巡る世界の食物語~読み物[デザイナー]西巻直美食で読む東方見聞録版形:A5 [誌面本文]Font:A P-OTF 凸版文久見出明 StdN、A-OTF 解ミン 月 Std B など中世ヨーロッパ風のデザインを希望されており、著者の方からの要望もあり年代毎にその時代背景にちなんだデザインを取り入れました。歴史を調べつつデザインに落とし込むのが結構難しく、また勉強になりました。09No.
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